東京の水辺からもう一つの東京を想像する、クルーズツアー〈対話編〉

nl/minatoの一環として、アーティストによるリサーチの視点や作品制作のプロセスを辿りながら、いつもとは異なる角度で地域を知るためのまちあるきや哲学対話を行ってきたオバケ東京研究会。

アーティストの佐藤朋子さんと建築家・都市史研究者である渡邊大志さんによる、海から東京を見てみる「オバケ東京クルーズツアー」の後、SHIBAURA HOUSEへ移動して、お二人の対談とQ&Aを行いました。

レポート前編:東京の水辺からもう一つの東京を想像する、クルーズツアー〈ツアー編〉はこちら

第二部の対話の会では、まずお二人からこの企画に至った経緯やそれぞれが活動の起点としていることを共有いただき、渡邊さんがナビゲーターとなって、ブルーインフラの視点も含めオバケ東京を読み直すことによって、当時芸術や建築に携わる人々がどのように東京という都市を捉え、描こうとしたのかを紐解いていきました。

岡本太郎がオバケ東京に託した都市の欲望とは?

これまで様々な人が東京論や東京像を展開してきたなかで、岡本太郎のオバケ東京論が今もなお色褪せず語られるのは、「オバケを一体どう捉えるか」ということ自体が、答えのない問いとして存在し続けるからなのかもしれません。幽霊とオバケの違いは岡本自身も言及していますが、幽霊が恨みを晴らすために出てくるのに対し、オバケはその人/もの自身が持っている世界が反転して立ち現れてくる潜在的な生命力や想像力のようなもの。彼がオバケ東京に託したのは、政治/経済/法律に翻弄され辻褄を合わせのような現状の都市がどんな欲望を持っていたのか、その本性を示すことだったのではないか、と渡邊さんはいいます。

岡本太郎が1957年に描いたオバケ東京の図。岡本太郎はオバケ東京について残しているのは、絵と短いテキストのみといっても過言ではないそう。それ故に解釈の余地もたくさんある。(写真:田郷美沙子)

岡本太郎と丹下健三の2人の提案の違いをみていくと、彼らが都市の欲望をどう捉えていたのかが浮かび上がります。丹下による「東京計画1960」は、皇居を中心とした軸線を据え「陸から海へ」臨海都市を拡張していくものでした。クルーズツアーでも話された東京港の成り立ち(河川法・港湾法・都市計画法の変遷を経て湾岸に都市が広がった)のように、資本という欲望とルールとがせめぎ合いながらも、かつての江戸と同様に中心から放射状に都市が広がっていく発想です。 

一方で、「いこい島」構想*をはじめとする岡本のオバケ東京論では、中心を動かしたりいくつも作っていくような考え方。現状の東京に対する不満を集めて、シュプレヒコールをあげることをレジャーと呼んでいたのではないか、と渡邊さんは続けます。都市は快楽で欲望の塊なのだから、それを徹底的にやり尽くす中に本当の芸術があるのだと、人々を奮い立たせるための岡本からのメッセージだったのかもしれません。

*1957年6月の雑誌『総合』(東洋経済新報社)の中の「ぼくらの都市計画」において、岡本太郎が示したプラン。東京湾岸沖にレクリエーションに特化した「いこい島」(=もう一つの東京)をつくろうというもの。

丹下健三の軸線

クルーズツアーで日本橋を折り返す時にみた景色と重なる、葛飾北斎の富嶽三十六景。日本橋を上から眺めつつ、江戸城を見上げ、遠くまで見通せるパース(ビスタ)になっている。本来は異なるはずの消失点をあえて重ねて描くことで、船から見た都市と陸からみた都市、両方の軸が重なり、江戸という街を説明している。丹下は、同様の手法を用いてお台場の砂浜からレインボーブリッジの方を向いたビスタの先に、増上寺・東京タワーを望んだ。(写真:田郷美沙子)

丹下が「東京計画1960」を経て、後に1990年代にかけて臨海副都心構想や世界都市博覧会の計画に携わる際には、皇居からのみ引かれていた軸線にも変化があったといいます。クルーズツアーで最後に訪れた夢の大橋がその一端。皇居から晴海通りに通っていた軸線に並行する形で、世界都市博覧会のマスタープランにあった中央プロムナード・東京テレポートから増上寺・東京タワーを結ぶ軸線が追加されたのです。これはまさに丹下が、岡本に影響を受け、中心を動かすという考え方を自身のプランに取り入れたのではないか、と渡邊さんは分析しています。

もう一つの東京を想像する

佐藤さんは、最初に東京でのリサーチを始めた時、自分1人で今や未来の都市を考えることに絶望感があったといいます。そんな時に岡本のオバケ東京に出会い、もう一つの東京を想像することだったから自分1人のスケールからでもできるのではないかと思い、この数年取り組んでいるとのこと。今回のツアーでは、自身も陸の延長として海をみる視点から、次第に海を起点に陸続きの東京を見返す視点へと反転し、その感覚が新鮮だったとのこと。

2018年に渡邊さんが立ち上げた反転オバケ東京のプロジェクト。海上から見た東京という新しい視点で都市を見直す。航行可能な水深領域は白で表現。陸海を反転し、現在の都市部が既に「いこい島」として岡本のオバケを超えていることを呈示する。(写真:田郷美沙子)

渡邊さんはこれまでの自身の分析を踏まえ、(陸地にいる)自分たちがオバケなのではないか、という結論に至ったそうです。先に佐藤さんが述べたように、政府や国家によって表現される総体としての「都市」は1人には大きすぎるけれども、岡本や丹下のように俯瞰と軸線・アイレベルを同時に行き来して都市を捉えることによって、最終的に個々人が「国体(=What is your (urban) identity?)」へ思いを馳せることに行き着くのではないか、と続けます。

岡本は、皇居(象徴天皇制)を都市構造の中心として据え続けているような都市構造に疑問を呈し、都市の中心を動かしたり何個も作る発想に至ったのかもしれません。彼の問いは、戦後の象徴天皇制そのものにというよりは、自分たちの元来の文化とは異なる文脈*を、ある意味思考停止状態で受け入れてしまっている私たちに対して投げかけられているようでもあります。 

1人の中にも佐藤とオバケ佐藤がいるように、都市の内側にも様々な一面をもったオバケがいるーーその上で都市の本性、つまり私たちの生きがいやアイデンティティが、一体どこにあるのか、考えてみる必要がありそうです。

*岡本は著作『日本再発見―芸術風土記―(1958)』で、輸入された西洋の「アート」という概念ではなく、各地にある土着の芸術や精神性を追い求めて全国を旅をする。そこで語られている東京や世界といった中心主義ではないあり方は彼の都市論にも反映されているようだ。

さいごに

ツアーに始まり、都市とオバケについてじっくりと考える1日でした。時間軸や誰の視点かなど、何に焦点を当てて語られるかによって都市が全く違う見え方になることを改めて感じました。一方で、オバケ東京を切り口とした時、その多層な都市を考えれば考えるほど、段々と「私たち」や「自分」を見つめ直す時間になっていくことが個人的には面白かったです。国の体と書いて「国体」の話が出てきましたが、東京で普段生活していると特に、自分の身体感覚すらも実感が伴っているのか、よくわからなくなる瞬間もあります。そういった意味でも、今後もオバケ東京を自分の存在や欲望を取り戻すためのヒントにしていきたいと思いました。(元行まみ)

■メンバープロフィール

佐藤朋子(さとう・ともこ)

1990年長野県生まれ。2018年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。レクチャーの形式を用いた「語り」の芸術実践を行っている。近年の活動に、オンライン・プロジェクト『TWO PRIVATE ROOMS-往復朗読』(青柳菜摘と共同、2020–)、「第14回恵比寿映像祭:スペクタクル後 AFTER THE SPECTACLE」(東京都写真美術館、2022)出品、「公開制作vol.2 佐藤朋子 狐・鶴・馬」(長野県立美術館、2022)など。また、シアターコモンズにて東京をフィールドに展開するプロジェクト『オバケ東京のためのインデックス』に2021年より取り組んでいる。http://tomokosato.info/

渡邊大志(わたなべ・たいし)

建築家・早稲田大学創造理工学部建築学科准教授。博士(工学)、 一級建築士。
世田谷まちなか観光交流協会委員、港区景観審議会委員、 東京建築士会事業委員、第22期日本建築学会代議員。

経済空間としての都市を生み出し、ひいては人間の暮らしの基盤となっている海、航路、湾、港、暗渠をひとつなぎのものとするメタインフラを「ブルーインフラ」と総称し、展覧会などを開催している。

1980年、鎌倉生まれ
2005年、早稲田大学理工学術院建築学専攻修了。
2005年-2013年、石山修武研究室一級建築士事務所勤務。
2012年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。
2016年、早稲田大学創造理工学部建築学科准教授、 株式会社渡邊大志研究室一級建築士事務所設立。
2019年-2020年、フィンランド・ アアルト大学客員研究員。
2022年、リンクアーキテクツ株式会社に改称。

受賞歴:東京建築士会住宅建築賞金賞(2021)、 日本フィンランドデザイン協会賞(2021)、 日本建築学会作品選集新人賞(2022)など。



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