ユウリンさんのアトリエを訪ねて

10月8日から始まる企画展「With Indigo, Through Time in Tokyo.」では、藍染作家リン・ユウリンさんの作品を紹介します。その開催に先がけて、東京に拠点を移したばかりの彼女のアトリエを訪ね、藍染との向き合い方や、これまでの歩みについてお話を伺ってきました。

- 東京にはいつから住んでいるんですか? 

この春から東京に来ました。日本にいるのは2018年からです。以前は徳島で3年半ぐらい、金沢でも3年過ごしました。このアトリエは、いま一緒にシェアしている友達が見つけてくれました。彼とは去年の夏に徳島のBUAISOU(藍染のスタジオ)でインターンをしているときに知り合いました。

▲中目黒の古いビルにあるシェア型のアトリエを借りて制作を続けている

やっぱり私は台湾人なので、日本の仕事もしたいけど、台湾の仕事もしたい。それに日本の藍を台湾の人にも知ってほしいし、台湾の藍のことも知りたい。それなら距離的に東京が一番良いと思いました。以前住んでいた徳島から台湾へ行くのは本当に遠かった。一度、バスで関空に行かないとならない。金沢も小松から台湾への便もそんなに飛んでいないし。

-なるほど。そういうことですね。

それと、実は本当に簡単な考え方というか。たとえば「日本に住んでいる台湾人作家」と「日本から台湾に帰ってきた作家」がいるとして、どっちの方が良いと思います? その響きというか。みんながすごいなあって思うのは「日本にいる台湾人作家」でしょう(笑)

- 面白いですね。以前に聞きましたが、藍染に必要になる灰を都内のピザ屋さんからもらっているんですよね?

そうです。ただ、いまは代々木にあるパン屋さんからもらっています。googleで東京で薪で焼いているパン屋を調べて見つけました。最初にインスタで連絡をしたけれど返事がなくて、直接お店に行って手紙を渡しました。もらうのはだいたい5キロ。月に一回くらいです。私は車がないから手で運んでいます。

- その青い手を見て、驚く人もいますか?

いつも見られますよ。恥ずかしいんだけど…。でも日本人は聞いてこないです。一回、電車でおばさんに「藍染ですね」って聞かれたことはあります。その人も趣味で藍染をやっているようでした。

なかには手が青くならないように、ゴム手袋をして藍染めをやる人もいるけど、細かい作業ができないから私はしない。青いのは藍染のタトゥーっていうか。今度「藍染やってます」ってTシャツつくろうかな(笑)

▲爪が特に青く染まりやいと話すユウリンさん

- 藍の栽培について少し教えてください。 

台湾と日本の藍は異なります。台湾の藍は山に自生する多年草で、日本の藍は一年草の植物です。だから日本では収穫できる時期が決まってきます。春に種をまいて、6月頃に一回刈り取ります。また生えてきたら取って、それを秋まで続けます。ラッキーだったら年に3回収穫できます。

秋になると花が咲いて、色素が落ちるので刈り取りはしません。花の種は来年の春のために取っておきます。 徳島について言えば、昔からずっと残ってきた藍師は4軒しかありません。でも、この4軒の中でも大きいのはふたつだけで、私が使っているところともう一軒です。

- 藍染の業界はどのような仕組みなんですか?

藍染めの歴史で見ると、昔から大体分業でやっていました。「すくも」*を作る人が「すくも」を作って、染めは染めて、販売は販売のひとがやっていました。私がインターンをしていたBUAISOUのように、それらを全部ひとつの会社でするのは新しいかもしれません。

*藍を乾燥、発酵させたもの。本来、藍は水に溶けないが、染料として使用するためには木灰汁や石灰(アルカリ性)の力を使って発酵させる

- 台湾にも藍染がありますが、日本との違いはありますか? 

基本的に台湾では「すくも」は作らないです。台湾では葉を取ってすぐにその場で染料を作ります。日本のように発酵させて「すくも」という形にはしません。

▲徳島から取り寄せた「すくも」。現在は入手するのも簡単ではないとのこと

「すくも」はまず刈り取った藍の葉と茎を分ける作業があります。機械で切って、扇風機をかけて葉と茎を分けるんです。葉は軽いので飛んで、茎は重いのでそのまま落ちます。葉は乾燥保存して、10月から1月頃に発酵させます。ちなみに戦争の時代には米作りが優先されたので、藍染めが禁止されて、藍の種を隠して保存する必要があったことも聞きました。

昔は商人が「すくも」を販売していました。ただし今は必要に応じて藍師と呼ばれる人たち(藍を栽培・収穫して「すくも」を作る人)が話し合って、価格を調整しています。

- 藍染の世界で感じることはありますか?

昔から藍染は男の人のイメージが強いかもしれません。いまは女性の作家も増えてきているんだけど、絞りの偉い先生は男性。「すくも」をつくるのも、染めも男性。

やっぱり生地が重いんです。絞りは引っ張る時とかに力がいるんです。だから男の人と女の人の絞りもちょっと違う。初めてBUAISOUに行って感じたのは「すべて男性」ということ。うわっ、すごいなあって。私はその段階で負けている。じゃあどうすれば勝てるんだって。

▲絞りには集中力と丁寧さが必要

- それは力に頼らず、自分らしいものを作っていくことでしょうか?

そうです。徳島に行ったとき、私も最初は徳島の作家や工房を真似しようと思ったけれど、その後、金沢に行って視野が広がりました。金沢には藍染だけではなく、草木染めやテキスタイル、彫刻などいろいろな作家がいます。彼らを知ることで、自分らしい藍染とはなにかを考えるようになりました。

- 伝統的な要素と新しいものをどう組み合わせていくのでしょう?

私はまだ新しい部分には辿り着いていない。いまは伝統の技法を学んでいて、そこからどう切り開いていくか。最近考えているのはオブジェとしての生地。置いてあるだけで成り立つもの。以前は絞りで壁をつくりたいと考えていたこともありました。ただしスケールが大きくなっていくと、スペースの問題があって難しい。だからいまやりたいのは芸術祭とかに参加して、みんなが参加できるような大きなインスタレーションをつくること。藍染はみんなのものだから。

- よりアーティストに近いですね?

自分も女性として日本に来たけれど、日本は差別が台湾よりも多いことを感じます。とくに徳島は特に田舎だからすごく気が荒い。結婚の話とか聞いちゃいけないようなことも聞かれる。台湾と中国の政治の話とかもよく出てくるし。でも、そうした差別や政治、藍染をめぐる社会構造とか、いろいろあるけれど、そういうことを考えるのが自分のためになる。自分は藍染でなにができるかわからないけど、それを表現してみたい。

リン・ユウリン | Yuling Lin

私は台湾・新北市三峡の出身であり、ここは台湾の伝統的な藍染産業の発祥地のひとつとして知られています。2018年に徳島へ移り、「灰汁発酵建て」による藍染を学びました。蒅、木灰汁、石灰、ふすまのみを用いて育てる染液は生き物のようで、日々の管理には時間と注意を要します。

甕の温度を測り、布で染液の力を試し、底を攪拌する作業を繰り返すうちに、私はこのリズムの中に「今ここにいる」という感覚を見出しました。藍甕との関係は単なる技術ではなく、時間やケアと深く結びついた生き方そのものです。そして、染めを行う時は存在を強く実感し、行為を止めた瞬間には不在へ移行するのではないかという問いを抱かせてくれます。

https://www.instagram.com/yulinglin_studio/

「With Indigo, Through Time in Tokyo.」
期間: 2025年10月8日(火)~10月26日(日) 
休館日:10/12, 13, 19
時間 :12:00 - 18:00
会場 :SHIBAURA HOUSE
入場料 :無料


収録日: 2025年9月8日
聞き手: 伊東 勝
撮影 : 小林 徹

SHIBAURA HOUSE

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