「おいしい」のその先へ (part 1) - オランダ・ゼーラント編

この夏 nl/localは、オランダで食を通した日蘭交流プロジェクトを開始しました。

食文化はそれぞれのコミュニティで受け継がれ、時代とともに変化してきました。例えば今では日本の食卓に溶け込んでいる砂糖。これは日本がまだ鎖国中だった江戸時代、長崎の出島への出入りを許可されていたオランダの貿易船によってもたらされたものだといわれています。  個人が受け継いでいる食文化は、世界中の文化が混ざっていくなかで流動的に形成されているのです。

それでは少し先に目を向けたとき、私たちの食文化はどうなっていくのでしょうか。世界情勢や自然環境が大きく変化しつつある現在、料理はどのような意味を持つのでしょうか。同時に、生産者・料理人・消費者の責任とはなんでしょうか。そんな疑問をもとに、オランダと日本のより感覚的な交流から「食の未来」を探っていきます。

日本食シェフとオランダへ

2023年の夏は、第一弾として京都の料亭「丹」で日本食のシェフを務める山手さんとオランダへ。今回は「『おいしい』のその先へ」をテーマにふたつのプロジェクトが行われました。

海辺の街ゼーラントでは現地シェフとのコラボレーション(今回の記事 / part 1)。

首都アムステルダムでは住民のキッチンでホームパーティ(記事はこちら / part 2)。

最後に、牡蠣に注目して「美味しい」だけではない、料理のあるべき姿を考えていきます(記事はこちら / part 3)。

海辺の街 ゼーラント

ゼーラントはオランダ南西部、ベルギーとの国境に位置する海辺の街です。ゼーラントという名前は、直訳すると「海の国」。海産物が豊富に取れることで知られています。今回ひとつめのプロジェクトとして、現地のレストラン Zilt&Zout にて、シェフのディミトリさんとコラボレーションメニューを振る舞いました。

コラボレーションは二人のシェフどちらにとっても新たな挑戦でした。プロジェクト始動当初の打ち合わせはやや緊張気味でしたが、イベントが近づくにつれお互いのシェフとしての経験や食文化をシェアしながら交流が深まっていきました。

8月下旬、数ヶ月にわたるオンラインミーティングを経て、晴れてZilt&Zoutの皆さんのまつZeelandへ向かいました。「こうして会える瞬間を楽しみにしていた!」と山手さんからも笑顔がこぼれます。夜、レストランへ到着するとディナータイムのサーブを終了したスタッフのみなさんが温かく迎えてくれました。

食材の買い付け

今回のコラボレーションでは、コースメニューを事前に決定しておくのではなく、現地に入ってから食材や文化を知っていく過程でメニューが考えられました。そこでまず現地の食材を直接見に行きました。

最初に訪れた特産物の牡蠣とムール貝の養殖場は、産卵段階から海での養殖まで完全管理を行なっているヨーロッパでも大変珍しい例でした。また日本とヨーロッパで牡蠣の食文化にどのような違いがあるかについてもお話をお聞きしました。

次に訪れたのはヨーロッパで最大級のワイン卸会社 HermanWines です。貯蔵庫にはびっしりとワインの箱が積み上げられていて驚くばかりでした。

レストランでワインを取り仕切るアニカさんは普段からこちらで仕入れを行なっているそうです。今回のコースメニューではデザート用として山手さんの生まれ年に生産されたワインを買い付けることになりました。

そのほかにも普段からレストランで使っているというマーケット、青果店、業務用の卸にも足を運びました。ゼーラントはベルギーとの国境近くに位置しているため、ベルギーの市場にも。レストランの近隣エリアは歴史的にも国境がせめぎ合ってきた土地で、食文化も両国の伝統が混ざり合っているそうです。

日本では馴染みのない食材を目の前に、いつもとは異なるインスピレーションを得る瞬間となりました。また、見慣れた食材でも一般的な食べ方やお互いの調理方法を知ることで新たな視点に繋がっていきました。

スペシャルコース「守破離」

今回、山手さんはコースのテーマとして「守破離」を提案しました。この言葉は武道などの修行の過程を表すために使われてきました。まずは「守」で伝統に従い、その後「破」で既存のルールに自分の視点からアレンジを加え、最後に「離」で全く新たな道を切り開いていくという意味が込められています。日蘭の食文化が交わるときに見えてくる新たな可能性に期待が込められました。

「守破離」に沿って、牡蠣の沖漬けとZilt&Zoutで看板のオイスターに始まり、うなぎの天ぷらバーガー、牡蠣の沖漬けの出汁を使ったきのこパスタ、皮まで野菜を丸ごと使ったムール貝の炊き込みご飯、カステラを元にした満月のデザートが提供されました。

調理の過程で山手シェフが特に着目したのが、日本食の技術を使って現地の食材をどう調理できるのかという点です。仕入れの場で食材から受けた感動を料理として表現することにこだわったと言います。それぞれの食材の味を最大限に引き出す方法でコースが構成されました。

そういった配慮は、メニューの隅々に込められていました。どのように食材廃棄を極限に減らし、限られた食材で料理できるのか。野菜の皮や牡蠣の出汁まで使い切り、「おいしい」だけではないコースが完成しました。

調理法の中でも際立っていたのが骨ぎり(そのままでは食べられない小骨を包丁で断つことで丸ごと食べられるようにする技術)です。歴史的には、もともとは小骨が多くて好まれなかった鱧(ハモ)を食べやすくするために発展を遂げた日本食独自の調理技術です。

今回のコラボレーションではうなぎの骨ぎりをお客さんの前で披露しました。ディミトリさんも山手さんからプレゼントされた魚用の包丁を使い、初めての調理法に挑みました。その技術をうなぎの天ぷらバーガーに応用し、骨まで食べられる天ぷらになりました。

新たな食文化を目指して

レストランのお客さんたちからは「おいしかった」という感想以外にも、調理方法への質問やオランダと日本の食文化の違いについても話が膨らみました。オランダの食に親しんだ人からは、日本食は味付けや見た目も含めより繊細に見えるのだとか。賑やかな雰囲気で食事が進んだため、ざっくばらんに日蘭の関係を考える機会になりました。今後、より深く食について話せる場を作ってみたくなりました。

またディミトリさんはコラボレーションの後、今度は日本の市場へ視察に行ったり、山手さんのレストランで料理を食べてみたいと話してくれました。また山手さんにとっては、オランダの食文化や水の違いによって起こる調理方法の調整など、普段とは違う思考回路を使う機会になったそうです。この企画を一回で終わらせるのではなくいずれは世界で開催できるようなイベントにしていきたいと渡航前から話していたのですが、今回は目標がより明確になる経験となったのではないでしょうか。

今回ゼーラントに滞在する中で、会話の節々でオランダと日本の食文化、生産形態、レストラン業界の事情など共通した課題もたくさん見えてきました。また買い付けやキッチンで異なる文化を肌で感じ、「食の未来」を考えていくためのベースとなるような学びの機会となりました。

伝統を守りながら、その枠を突破し、新しい可能性を模索し続けること。「守破離」で示されるゴールは簡単に達成できるものではありませんが、次の世代にも繋がっていくような新たな食文化のあり方を考える場を今後も国内外で広げていければと考えています。

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