
オバケは境界にいる?東京の異界を探すまち歩きへ
SHIBAURA HOUSEでは現在、nl/minatoの一環として、アーティストによるリサーチの視点や作品制作のプロセスを辿りながら、いつもとは異なる角度で地域を知るためのプロジェクトを佐藤朋子さんとともに計画しています。本格的に動き出すのは4月以降になりますが、1月7日(土)に、リサーチ活動の一環として妖怪研究者である廣田龍平さんと、麻布七不思議に関連する場所や、区内に多くある坂を巡りながら、異界を辿るまちあるきを行いました。

*がま池伝説:江戸時代、がま池は旗本・山崎治正の屋敷の敷地内にある大きな池でした。近隣で火事が起こったとき、池の主である大がまが口から水を吹きかけて類焼を防ぎ、山崎家の屋敷を守ったという伝説。
まずはじめに大都市の中で異界を探すコツとして、見聞きすることに加えて、人がいない様子を想像したり、時間が経っても守られ続けているその場所から何かを感じ取ることが大事だと教わりました。廣田さんによると、民俗学的には、オバケは間や境目などどっちつかずの曖昧なところに現れることが多いのだといいます。具体的には、時間的境界(昼から夜に移り変わる誰そ彼時や逢魔が時など)や、空間的境界(曲がり角や辻、谷間や峠の境など、先が見えないような場所や風の流れが乱れる場所)とのこと。また港区には公式なものだけでも87もの坂があり、狐坂や狸坂、暗闇坂など、オバケを連想させるような名前のものもあります。所々にそうした境界を見つけながら、十番稲荷神社から一本松、がま池、柳の井戸などを巡っていきました。
■建物に囲まれたがま池を探して
かつて500坪あったとされるがま池は、昭和期に埋め立てられ、現在はマンションの敷地内に一部が残っているものの、池を囲むように建物が建ち並んでいるため、案内板だけが道の途中にポツンと残されているような形になっていました。「存在しているのに見ることができない」もどかしさを抱えながら周辺を歩いていると、偶然に出会った近隣の方が、池が見えるスポットと昔の様子を話してくださいました。

(写真右)道端に突如現れた(ように見える)がま池の看板
■私もオバケになり得る?
まちあるきを一通り終えた後は、SHIBAURA HOUSEへ戻り、廣田さんのお話を聞いたりそれぞれが実際に歩いて感じたことを共有しました。その中で印象的だったのは、人間と反対のものがオバケなのだとしたら、他者との関係性の中で自分もオバケになり得るのではないか、という話。例えば、海外に行った時に初めて自分が「アジア人で母国語が日本語である女性」であることを認識するように、自分がそのコミュニティの中で異質な存在(=オバケ)であることに気づき、今まで見ていた世界が反転するような感覚は誰しも経験したことがあるはず。自分自身の揺らぎによって、自分ともう一人の自分とを行き来し、本来求めていたものや新たな発想に気づくことができるような可能性を感じ、同時にそうした視点は佐藤さんが取り組み続けている自身の作品『オバケ東京のためのインデックス』*にも通ずるものがあるように思いました。
『オバケ東京のためのインデックス(序章・第一章・第二章)』*
土地や歴史の膨大なリサーチを新たなナラティブに再編成して語り直す、佐藤朋子さんによるレクチャーパフォーマンス。1965年に岡本太郎が記した都市論「オバケ東京」を出発点として、複数年かけてリサーチの成果を自らの身体にトレースする作業を継続している。これまで序章(2021)・第一章(2022)と毎年作品を発表し、2023年3月には第二章の公演を予定している。

(写真右)参道に柳の井戸がある善福寺とその背後のタワーマンション。このコントラストは実際に目にしても現実感があまりありません。
佐藤朋子さんとのプロジェクトでは、4月以降に彼女のリサーチを可視化する方法を考えていきます。どうぞお楽しみに!
元行まみ
■メンバープロフィール
佐藤朋子(さとう・ともこ)
1990年長野県生まれ。2018年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。レクチャーの形式を用いた「語り」の芸術実践を行っている。近年の活動に、オンライン・プロジェクト『TWO PRIVATE ROOMS-往復朗読』(青柳菜摘と共同、2020–)、「第14回恵比寿映像祭:スペクタクル後 AFTER THE SPECTACLE」(東京都写真美術館、2022)出品、「公開制作vol.2 佐藤朋子 狐・鶴・馬」(長野県立美術館、2022)など。また、シアターコモンズにて東京をフィールドに展開するプロジェクト『オバケ東京のためのインデックス』に2021年より取り組んでいる。http://tomokosato.info/
3月に実施予定の「オバケ東京のためのインデックス 第二章」
https://theatercommons.tokyo/program/tomoko_sato/
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廣田龍平(ひろた・りゅうへい)
1983年生まれ。博士(文学)。慶應義塾大学など非常勤講師。文化人類学・民俗学的に妖怪や怪異、都市伝説などの研究を行っている。著書に『妖怪の誕生 超自然と怪奇的自然の存在論的歴史人類学』(青弓社、2022)、訳書にマイケル・ディラン・フォスター『日本妖怪考 百鬼夜行から水木しげるまで』(森話社、2017)がある。
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共催:東京藝術大学大学院映像研究科 RAM Association