妹島和世さんと振り返る、建築と運営の9年間 - SHIBAURA HOUSE - Page 5
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妹島和世さんと振り返る、建築と運営の9年間

自分たちが暮らすまちを、自らの手で作っていく

I:今まで話してきた内容を踏まえて、建築に対する教育のありかたについてお伺いしたいと思います。以前、建築を学んだ学生が進路として行政側に進むとか、発注側と受注側の両方に人材がいたら良いのでは、と言われていたことを覚えています。建築を建てるということと同時に、どういったものが必要だと思われますか。

S:本当は一番の主役であるユーザーが、ユーザーというのもちょっとおかしな言葉ですよね、使っていて好きだなと思えたり、自分たちでまちを作っている感覚が大事だと思います。さらにその人たちが建築の教育を受けているとありがたいですよね。

そうすればもっと良いまちが出来上がってくるように思います。教育現場では、一般教養に「建築」があっても良いのかもと思います。図面を描くところまではいかないまでも、雑誌などで興味を持っている人は一定数いるのだから、日本や世界の建築の歴史や考え方を学んで、自分の地域について考えて実行する人が出てくると、段々市民によってまちが形作られていきます。

ひとの暮らしに寄り添う存在

I:実はしばらく前、妹島さんが設計された日立市役所に行ってきました。市役所の人たちも非常に熱心で、計画にあたってSHIBAURA HOUSEを三度も見学されたそうです。僕らは短い時間の滞在だったので、そこまで深く読み取れませんでしたが、あの場所の地域性に対してどう作用していくか楽しみです。先ほどおっしゃっていたユーザー側の視点で、大屋根の下の広場などがあることで自分たちが使い方を作っていく感覚がありますよね。お互い建設的な関係になっていけると良いですね。

S:そうですね。かつ私の希望としては、離れた時に「自分は日立の市民だ」と思い浮かべられる。あの建物じゃなくても良いんですけど、そういうもののひとつとして市役所が浮かんでもらえると良いなと思います。

日立市新庁舎竣工式典
▲日立市新庁舎竣工式典 [提供: 妹島和世 建築設計事務所]

I:SHIBAURA HOUSEの場合は、どれだけ僕らが地域の人の生活に浸透できるかを、これから試される感じがします。今までは、ある意味、放っておいてもスペースレンタルがあったり、離れていても関心を持ったイベントに来てもらうことで成り立っていましたが、移動ができなくなってしまったら、近くでどれだけ面白いことができるかを考える必要がある。買い物、通勤、通学、病院にいくとか、そういう日常的なシーンに文化性を加えることができると、また違った使い方になるのかなと感じています。

S:あと1年で10年目を迎えますよね。今から何が起こっていくのかわからないけど、この10年は、いろいろな問題が明るみに出てきて、みんながどうやって自分たちの暮らすまちを作っていくのかということを強く意識した年だったと思います。文句だけ言うお客さんになるのではなくて、自分たちが行動し始めないとだめだとわかった。そうはいっても突然行動することは難しいので、コミュニティに加わる形で参加する。そうすると自分が立っている位置も段々わかってくると思います。

I:そうですね。いまはコロナによって社会全体のあり方、またひとりひとりの意識のあり方が問われていることを実感します。妹島さんがおっしゃるように、建築に何ができるかという視点があると同時に、改めて私たちも建築と何ができるかという感覚をもつことで新しい可能性が拡がると思います。だからこそポジティブな意味で、いままでやってきたことをちょっと脇に置いて、次の一歩を落ち着いて考えていきたいと思います。そうはいっても、毎日バタバタしているのですが。

(2020.10.12 妹島和世建築設計事務所にて収録)


妹島和世(せじま かずよ)
日本女子大学大学院修了後、伊東豊雄建築設計事務所勤務を経て、87年に妹島和世建築設計事務所設立。95年西沢立衛とSANAA設立。近作に、梅林の家、犬島「家プロジェクト」、金沢21世紀美術館*、ROLEXラーニングセンター*、ルーヴル・ランス*等。*印はSANAA 第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国祭建築展総合ディレクターを務める。日本建築学会賞、プリツカー賞など受賞多数。

伊東勝(いとう まさる)
1974年生まれ。京都造形芸術大学メディアアート学科修了。2005年、株式会社広告製版社(現・株式会社SHIBAURA HOUSE)入社。2010年より代表取締役。