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妹島和世さんと振り返る、建築と運営の9年間

◎対談:妹島和世さん × 伊東勝(SHIBAURA HOUSE代表)

ウェブサイトのリニューアルを機に、SHIBAURA HOUSEを設計した建築家・妹島和世さんと、代表の伊東勝が対談を行いました。

 目次
 ‐建築と運営の立場で、お互いの9年間を振り返る
 ‐建築が社会の変化にどう対応していくか
 ‐機能しない建築にならないために
 ‐周りの環境や時間と付き合っていく建築のあり方
 ‐ひとつの建築から、みんなが変わる風景をデザインする
 ‐自分たちが暮らすまちを、自らの手で作っていく

SHIBAURA HOUSEの日常
▲まちとダイレクトに接する空間。運営側も、通りがかるひとも、時間の経過とともに少しずつ意識が変わってゆく
建築と運営の立場で、お互いの9年間を振り返る

伊東(以下、I):
SHIBAURA HOUSEが竣工したのが東日本大震災のあった2011年、現在は新型コロナウイルスが世界に蔓延しています。社会や仕事のあり方なども大きく変化している中、まず始めに自分たちの9年間を振り返りつつ、妹島さんにも今思うことをお話しいただきたいと思います。

「3年続いたら、次は6年できて。6年できたら、次は12年」という竣工当時の妹島さんの言葉が、僕の記憶に強く残っています。2020年で9年になりますが、正直実感として、大きな成功というよりも、小刻みにちょっとした手応えが続いている感じです。

この建物でできることが色々あるなと思いながら、前向きに考え続けてこられたと思います。ガラス張りで外の環境が入り込んでくるので、「自分たちも適応していかなくては」という感覚が、日々の働くなかであることが面白いですね。

妹島さん(以下、S):
その言葉は確か「1年続いたら3年」というところから始まっていたと思うのですが、私が一人で仕事を始めた時に知り合いの方がそう言って勇気付けてくれた言葉でした。この9年というのは色々なことが起こりましたね。特にこの1年、コロナは大きな出来事でした。

I:そうですね。まちから人が消えたような感じです。フリースペースにもふらっと立ち寄る人が明らかに少なくなって、今は以前の3分の1ぐらいです。どうしようかと半年ぐらい悩みましたが、もう少し人の生活にコミットするような機能を付け加えたいなと考えています。

皆が生活する上で、買い物をするという行為は変わらないので、1Fで野菜を売り始めました。売り方もただ売るのではなくて、ゴミを出さないゼロ・ウェイストのやり方で買ってもらう。また、先日東京の農家さんと出会って、「この建物だけの中だけでも、野菜や果物を育てられるよ」と言われました。

フリースペースでの野菜販売1
フリースペースでの野菜販売2
▲最近フリースペースで始めた野菜の販売

S:面白いですね。私たちも新しい事務所になってから、少しずつ色々な野菜を育て始めています。それから日射よけのためのゴーヤとひょうたん、パッションフルーツなども楽しんでいます。

地域のひとが本当に望むもの

I:試しに2階から上を農園みたいにしようと考えています。直売所みたいな考え方で、みんなが自由に入ってきて、好きなものを摘んで下の階で会計して、食べたりできる。先週から始めた野菜の販売でも、前はフリースペースに入ってこなかった人たちもふらっと来るようになりました。売れずに残ったものは、金曜日に近所の人も含めみんなでご飯を作って食べるとか、そういった循環を作っていけたら良いなと思って動いています。

S:芝浦には子育て世代も多いから直売とか、オーガニックのものとか、求めている人は多いような気がします。

I:また芝浦運河の周辺で地域活性を一緒にやってくれないかという依頼が港区からあって、今度は運河沿いに菜園を作るとか、コンポストを置いてみるとか、そういったことを提案しているところです。自分たちの建物を、実験場やメディアのように使いながら、他の仕事ともつなげていければ。

S:ただ活動するだけじゃなくて、何かやっていることがわかりやすく捉えられるような場が必要であると思います。例えば運河沿いとか、自分たちも色々やるんだけれど、地域の人が集まって何か発信する時の拠点になれると、なお良いと思います。

I:建物ができた当時、妹島さんにどんな人に使って欲しいですかと聞いた時、「こどもたち」とお答えになったのを今でも覚えています。こんなことをやっても良いんだよ、というのをこどもたちにもわかって欲しいとおっしゃられていて、9年経ってようやくそれが馴染んできたように思います。

S:設計しているときは、おっしゃっていることはよくわかるけど、本当にこんな雲を掴むようなことをやっていて良いのかなという迷いも少しありました。床面積を増やしましょうかという話をした時期もありましたが、最終的にはやっぱり一番初めのコンセプトに沿ってやろうということで続行しましたが。そのうち余裕ができたら、テラスがもっとまちに広がっていくと良いなと想像してしまいます。1Fの外に階段があって、そのままテラスに直接上がれるとか。

I:外階段ということですか? その発想はなかったですね(笑)。でも、想像力がある人は何かしらここでやりたくなりますよね。そういう意味で、今でも正直新しいと思います。外から来た人も9年前にできたものとはあまり思わないし、僕自身もそう感じています。

S:大切に使っていただいているのもあるし、使い方によっていかようにも発展しそうな楽しみがありますよね。9年かかって、やっと最初のビジョンとしてあったものが見えてきた。ひとつは「普通のオフィスではなくて、地域とつながっていたい」というのが段々と形作られてきたこと。もうひとつは色々と開放的にできているから、その都度新しいことが生まれているのかもしれませんね。

植物のイラスト
感覚や考え方が縛られる今の仕組み

I:そのおかげもあってなのか、こういった社会状況は社会状況で、なんとか前向きに捉えられています。それができる余地が残っている建物ってなかなかないと思うんです。もしこれが普通のオフィスだったら、やることが限られてしまいますし、現実的に誰かに売ってしまうとか貸しビルにしてしまおうと考えていたかもしれません。

でもここはまだまだ違った使い方ができる。ポジティブな意味で、いい遊び道具というか、ただ働くだけではなくて、遊びながらそれを仕事につなげていけるような空間だと思います。

S:今までと同じような再開発とか、今までの論理だけで効率良くやろうとすると、バランスが崩れてしまいます。決まった性能を限られたお金で確保しなくちゃいけない、となるとどうしてもやり方や建て方も決まってきて、保険に入って……と、他にやりようがないぐらい、みんながんじがらめのところで生活せざるを得なくなってしまうように感じます。

結局色々な災害にしても、それが極端になってバランスが崩れた結果、自然が警告を出しているような状態だと思います。自分たちの感覚や考え方も縛られすぎてしまって、段々とうまくいかなくなってきていると思うんですよね。

SHIBAURA HOUSEももっと効率良くやろうと思えば、床面積も最大限にして、貸室面積を上げて作ることもできた。庭をたくさん作ると床面積が少なくなるだけでなく外の空間を作るための防水や外壁の作業も増えて、余計にお金がかかる。でも普通と少し違うものができているからこそ、普段窮屈に生活している人たちが、違う形で集まれる場所になっていると思うんです。

今になってみればこういう時代がきたんだなと思えるけれど、コロナにしても、まさかこんなに世界中がピタッと移動を止めることがあり得るとは少し前は思えなかったです。設計当時は、とにかくよくわからないけれどまずエレベーターではなく、なるべく歩いて上まで行けるようにしようとか、庭があったら良いとか、そういう断片的なことを構想しながら作りましたよね。それがどういう意味を持つのか少しずつわかり始めた。新しい集まり方が見えてきているのではないでしょうか。