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アムステルダム市民へのインタビュー

BY 笹原風花

オランダを主語にして語るのは難しい

オランダを主語にして語るのは難しい。これは、今回のnl/minatoのオランダ探訪で折に触れて感じたことであり、本レポートを書くにあたっても、最初に触れておきたいことです。

私たちは往々にして、「日本(人)は…」「オランダ(人)は…」と、社会や国民を一括りにして語ります。オランダは自由な国だ、オランダ人はLGBTに対して寛容だ、オランダ社会は移民を受け入れている、などなど。もちろん、そういう傾向やそう考える人の比率が他国や他国民より強いのは事実でしょう。しかし、今回多くの方にお話を伺うなかでよく耳にしたのが、「アムステルダムではこうだけど、地方では保守的な人たちも多くて…」という言葉。個人的な知り合いであるオランダ南部の町に暮らす60代の女性も、「オランダと言っても、アムステルダムのような都市部と地方とでは考え方が大きく違う」と話していました。

今回私たちがお会いしたのは、アムステルダムに在住もしくは勤務している方々が中心です。前置きが長くなりましたが、「オランダ(人)は~だ」と短絡的に結論づけることなく、あくまでもオランダの一側面を見ているのだという意識を忘れず、見聞きしたこと感じたことを書いていきたいと思います。

LGBTの象徴、レインボーフラッグが掲げられるアムステルダム旧市街地
オランダ南部の町、クラーニンヘン。移民も少なく、多様性あふれるアムステルダムとはまったく雰囲気が異なる

「みんな違って当たり前」をどう学ぶか

「オランダ」と一括りにできないことを感じた一方で、想像していた以上に、アムステルダムという街が多様性に対して寛容だということも実感しました。

例えば、ジタ・メイヤーさんのお話。子どもが欲しかったメイヤーさんは、ゲイの友人からの精子提供で妊娠・出産し、現在8歳になる女の子を育てています。このようなかたちで子どもを産みシングルマザーになることに対し、とくにMeijerさんの母親は大歓迎で、これまで周囲から苦言を受けたこともなかったと言います。また、Meijerさんの娘さんのデイケア(保育所)には、「パパ・ママ」を持つ子どもだけでなく「パパ・パパ」や「ママ・ママ」を持つ子(同性愛者カップルの子)もいて、娘さんはそれを当然のこととして受け入れていると言います。自分と違う価値観を持つ人々に対して寛容であり、子どもたちも「いろんな家族のかたちがある」ということを当然のこととして受け止めている。その事実は、子育てをしている一母親としても、とても衝撃的なことでした。

かつて日本に3年間ほど滞在したことがあり、日本語も堪能なジタ・メイヤーさん

また、現地コーディネーターの根津幸子さん(アムステルダム市在住)の小学校へのお迎えに同行させてもらったときのこと。そこでは実にさまざまな人種の子どもたちが同じ教室で学んでいました。先生とオランダ語ではなく英語で会話をしている保護者も少なくありません。根津さんに尋ねると、小規模な学校にもかかわらず、生徒の持つバックグラウンドは50カ国以上に及ぶそうです。見た目も家庭環境も考え方も、みんな違って当たり前。そんな環境で育つ子どもたちを、少しうらやましく思いました。我が子の通う保育園にも両方もしくは片方の親が海外出身というお子さんが何名かいますが、やはり日本人がほとんどです。そして、子どもたちは無意識のうちに、いわゆる日本人が「普通」だと感じるようになります。それってとても、怖いことだと思うのです。

自分でできる人、自分にできる人に

私たちのチームは、オランダの親たちは家庭でどのように子どもと接しているのか、家族のあり方や親子の関係について興味を持ち、今回の探訪に際して、アムステルダム市内在住の3名のパパ・ママたちにインタビューをする機会を得ました。

お話を伺ったのは、ローザ・アレンツさん(5歳・2歳の2児のママ)、フランカ・ウェッセリングさん(5歳・2歳の2児のママ)、マールティン・クラインさん(5歳・1歳半の2児のパパ)。私たちのチームでは、「(オランダでは)幼い頃から子どもを一人の人間として扱っているのではないか」と推測していたのですが、3名ともお子さんがまだ小さいこともあってか、そうしたスタンスは明確には感じ取れませんでした。ただ、将来どのような人に育ってほしいかという質問に対しては、「自立し、自分に自信を持てる人」(アレンツさん)、「自分に自信を持てる人」(ウェッセリングさん)、「自立して自分で決められる人、挑戦できる人、創造できる人」(クラインさん)と、「Self(自)」という単語が多く出てきたのが印象的でした。自分で~できる人、自分に~できる人に…というのは、自分で何とかしないと誰も何もしてくれないよ、という自己責任の意識の強い国ならではなのではないかと感じました。そして、素敵だったのが、子育てで大事にしていることを尋ねたときのアレンツさんの回答。「Just Love!(愛)」と自信を持って答えてくれました。

ローザ・アレンツさん。子どもが大きくなっても、フルタイムに戻るつもりはないと言う

フランカ・ウェッセリングさん。言語学で博士号を取得し、近々研究職に復帰予定とのこと

家事はパートナーと分担し、主に料理を担当しているというマールティン・クラインさん。子どもが生まれた際には6週間育休を取得したそう

ワークライフバランスの実態は…?

チームとしての関心事に加え、私個人が興味を持っていたのが、オランダ人の働き方です(ここではあえて、「オランダ人」を主語にします)。私自身も二人の子どもを育てながら働くいわゆるワーキングマザーであり、仕事と育児の両立においてはこれまで数々の壁にぶつかってきました。周囲の働くママたちの苦労話もよく聞きますが、一番多いのが「共働きなのに、育児は女性中心になっている」ということ。その要因の一つが、日本社会にはびこる長時間労働だと言えるでしょう。一方のオランダでは、残業はほとんどなく、ワークシェアリングが進み、週2~4日だけ働くというパートタイムワーカーも多いとのこと。そこで、今回の探訪ではその実態を探りたいと考えていました。

自転車大国オランダ。アムステルダム市内では、自転車通勤の人も多い

前出のアレンツさん、ワッセリングさん、クラインさんは、自身もパートナー(3組とも結婚はしていない)も、多くが週4日勤務のパートタイムワーカー(クラインさんはシフト制の勤務)。子どもが生まれる前はフルタイムで働いていたものの、子どもと過ごしたいからと、パートタイムに切り替えたと言います。オランダでは、パートタイムになっても基本的には雇用形態(正規・非正規など)は変わりません。男性もパートタイムに切り替えるケースは珍しくなく、平日は夫婦・カップルが別々の日に休みをとり、休みの方が子どもと過ごすそうです。パートタイムの共働きで、育児も家事も分担する。幼い子どものいるカップルにとっては、こうした暮らしはごくごく一般的なのだそうです。ちなみに、保育料は週に何回預けるかによって決まるため、子どもをデイケアに預けるのは週2、3回だけという家庭が多く、デイケアに預けない日は祖父母のサポートを得るケースも少なくないようです。

かたや日本では、待機児童が多い都市部を中心に、パートタイム勤務では保育所に預けるのが難しいのが現実です。そのため、近くに子どもの面倒を見てくれる親や家族がいない限り、育休復帰後は「週5日のフルタイム勤務で保育園にも週5日預ける」か「仕事を辞めて専業主婦(夫)になって家庭で子どもを育てる」か、言ってみれば0か100かの二者択一を迫られます。パートタイムで働きながら(しかも両親とも!)子どもとの時間も確保するという選択ができるオランダは、その点でとても柔軟だと感じました。

アレンツさんはじめみなさん働き方への満足度は高く、ワークライフバランスという点では素晴らしいと思います。一方で、フルタイムで働き続けたいママやパパだっているんじゃないだろうか…と疑問が湧きました。これは日本ではあまり知られていないことですが、実は、オランダのデイケア(保育所)の利用料はとても高額です(一般的な額を伺うと、「日本の無認可保育園と同程度かそれ以上」という感覚でした)。そして、所得に応じて料金の一部が還元されるため、高所得世帯になるほど高額になるのです。そのため、あくせく働いて高額な保育料を払って子どもを預けるよりは、適度に働いて子どもと過ごす時間を持った方がいい、と考える人が多いのだそうです。アレンツさんたちからも、「子どもと過ごしたり自分のために何かをしたりすることに時間を使いたい」という声が聞かれました。

また、保育料が高いことについてどう感じているかを伺ったところ、「高いのはありがたくはないが、そういう選択(未就学児を預けて共働きをするという選択)をしているのは自分たちなので、仕方ない」(クラインさん)と受け入れている様子。一方、子育てにおいての課題や要望を聞いた際には、「企業や自治体が保育料をもう少し負担してくれればいいのだけど…」(クラインさん)ともおっしゃっていたので、やはり保育料が高い現実に対して改善を望む気持ちはあるようです。

オランダでよく見かける自転車。このカゴに子どもを乗せたパパ・ママたちが颯爽と街を走り抜ける

保育料が高いことも、柔軟な働き方を許容する社会構造を生み出している一要因なので、保育料が高いことが一概に課題であるとは言えませんが、私にとっては子育てをするうえでネガティブな側面に感じられました。そして、今回の探訪先で話を聞くなかで、働き方についてはこんな課題も見えてきました。

「ワークシェアリングが進み、週2、3日勤務の女性も多いが、離婚後(オランダでは近年、離婚率が上昇しているそう)に従来の収入だけでは暮らしていけないなど、デメリットもある。また、女性のキャリア志向が低い傾向があり、大卒で高学歴の女性でも能力を発揮しきれていないケースもある」(アムステルダム市国際政策部ディレクターのサビーネ・ジンブレールさん)

「女性の就労率は74.2%と高いが、そのうち73%がパートタイム。賃金の男女差も依然としてある。女性はパートタイム、男性はフルタイム、という構造が根強くあり、それが賃金差やキャリアの差にもつながっている」(Atriaのノーチェ・ウィレムスさん)

アムステルダム市が抱える諸問題について詳しくお話しくださったサビーネ・ジンブレールさん
Atriaのノーチェ・ウィレムスさん。Atriaは、歴史的・文化的背景から女性の人権について研究する組織

働き方について日本がオランダから学ぶべきことは多々あるが、保育料が高いなどの社会保障面も含めて全体として成り立っているものだということを忘れてはいけない。良いところ(良く見えるところ)だけ取り入れても、同じ結果にはならない。そんなことを感じました。とはいえ、どう働くか、どれくらい働くかについて選択肢が複数あり柔軟なのはとても素晴らしいことです。労働人口の減少が問題になっている日本にとっては、ヒントとなることがたくさんありそうです。

サビーネさんを囲むnl/minatoのメンバーたち

日本を主語にして語るのは難しい。そんな話を、オランダに行く前にチームでしたことがありました。オランダで日本の事例を紹介したり日本の状況を説明したりするときに、「日本は…」、「日本人は…」と話すだろうけど、そのときには多様性に対して最大限の配慮が必要だと。拙い英語で何とか伝えることが精一杯で、十分な配慮ができたとは言えませんが、同様に「オランダを主語にして語るのは難しい」と感じられたこと、言ってみれば、オランダという国を生身のものとして複合的に捉えられたことは、とても新鮮で意義深いことでした。そのような機会を得られたことをとても幸運に思います。

アムステルダムを少し離れると、穏やかな風景が広がる(ライデンにて)

笹原風花
SHIBAURA HOUSEの近隣に暮らす、フリーランスのライター・編集者。教育系出版社など数社に勤務後、独立。教育や学びを中心に、幅広いジャンル・媒体で取材・執筆を続ける。学生時代に1年間オランダ・ライデン大学に留学経験があり、今回は十数年ぶりの渡蘭となる。